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仄暗い闇の底で

登場人物

満野遥 :主人公、平凡な高校生。
桐谷一夢:主人公の下級生。
早瀬光俊:主人公の担任。
鶴宮拓人:主人公の同級生。


-とある病室で-

遥:(ここは…?病院…?どうしてわたしが…?)

看護師:あら、目を覚ましたのね。
    医師に報告してくるわ。

遥:あの、看護師さん―!
  わたし、どうしてここに…

看護師:海で倒れていたのを、
    男の子が運んで来てくれたのよ?

遥:海…?そういえば…


-本編-

遥:先生、おはようございます!

光俊:ああ、おはよう、満野。
   今日も元気だな、うん、いいことだ。

遥:はい!
  今日も一日張り切っていきます!

光俊:はは、でも無理は禁物だぞ?

遥:大丈夫ですって!

光俊:お、もうこんな時間か。
   職員会議だ、満野、しっかり勉強もしろよ。

遥:はい!

拓人:ヒュー、朝からお熱いこった。

遥:な、何よ、そういうのじゃ…

拓人:お前、早瀬のこと好きなんじゃね?

遥:…。

拓人:ほら、図星!

遥:…別にいいの。
  叶わない、って解ってるから。

拓人:遥…。
   すまん、ちょっと調子乗った。
   帰り何か奢るから許せよ?

遥:本当に?じゃあ思いっきり高いの選ぼー!

拓人:げ、それはまずいって!
   俺が金欠になっちまうって!


-図書室で-


遥:借りてた本返しに来たんだけど、
  今日は委員会の人いないのかな…?

一夢:すみません、手が離せなくて…
   対応が遅くなりました…。

遥:あはは、大丈夫よ、
  桐谷君、今日もお疲れ様!

一夢:…はい…!ありがとうございます…!

遥:いつもたくさん借りちゃってごめんね、
  整理するの大変でしょ?

一夢:いえ、大丈夫ですよ…?

遥:絶対そんなことないって!
  桐谷君、無理するタイプっぽいもん!
  …そうだ!今度わたし図書委員手伝うよ!

一夢:え…?
   そ、そんなこと申し訳ないです…!

遥:大丈夫、わたしが言い出したんだから。
  じゃあ、今日も何冊か借りるから、
  それを返しに来る時にね!
  約束だよ。

一夢:あ、ありがとうございます…!

遥:…あ、そうだ、
  今日は拓人に奢ってもらうんだった!
  じゃあ、今日は帰るね!
  桐谷君も遅くならないようにね。

一夢:はい、ありがとうございます…!


-数日後-

遥:桐谷くーん!手伝いに来たよー!

一夢:ありがとうございます…!
   …でも、もう少しお静かにされた方が…

遥:あ、ゴメン、ここ図書室だったね…。

一夢:本当に来てくださったんですね。

遥:わたし約束は守る方だしね!
  じゃあ、まず在庫処理からかな?

一夢:そうですね。
   じゃあ、そこの本をこの本棚に並べて下さい。

遥:オッケー、任せて!

遥:ふー、
  何だか静かな感じの仕事なのかなって思ってたけど、
  案外体力いるんだね、図書委員…。

一夢:ふふっ…
   実はこれくらいのことは毎日なんですよ?
   他にも返却を捌いたり、借り出しを捌いたり、
   結構忙しかったりします。

遥:あ、桐谷君が笑った!

一夢:…え…?

遥:あ、違うんだよ?
  何か、桐谷君って滅多に笑わないイメージだったから…。

一夢:…貴方のお陰です。

遥:え…何か言った?

一夢:い、いえ、気にしないでください、
   ただの独り言なんで…!

遥:えーそれ気になるよー!
  教えてくれないの?

一夢:な、内緒です!
   僕は何も言ってません!

遥:ちぇー、もったいないことしたなー。
  桐谷君の独り言気になったのに…。

一夢:…。

遥:そういえば、桐谷君今日帰りは?
  一人なの?

一夢:はい、そうですけど…?

遥:よかったら、一緒に帰らない?
  もう暗いしさ、わたし一人じゃ怖くて。

一夢:…はい!
   僕で護身用になるかは解りませんが…
   でも精一杯守ります!

遥:あはは、そんな固くならなくていいよ!
  じゃあ、一緒に帰ろうか。

一夢:はい!


-翌日-

教師A:昨晩、早瀬先生が事故で亡くなられました。
   今日はお通夜がありますので、
   参列出来る者は参列するように。

遥:え…!?
  早瀬…先生が…亡くなった…?

拓人:遥…事故だって言ってるんだから、
   仕方なかったんだろうよ…。

遥:でも…!

拓人:遥!
   …もう亡くなった人の話だ、
   酷だが、忘れるしかないだろ…。

遥:うっ…ううっ…

拓人:あと、一つ警告だ。
   桐谷一夢、あいつには近づくな。

遥:…え?

拓人:アイツ、怪しい臭いがしやがる。
   お前のこと好いてるのは確かだが、
   何か異常な感じがするんだよ。

遥:え…桐谷君が…わたしを…?

拓人:気づいてなかったのかよ!
   …それはいいとして、本当に注意しろ。
   アイツは危険だ。

遥:う、うん…解った…。

一夢:…僕の満野さんに、何か吹き込んでる…。
   アイツも処分しなきゃいけないのか…。


-その晩-


拓人:なーんか喉渇いたんだよなー。
   コーヒーにでもすっか。

一夢:…!(何かを振りかぶる音)

拓人:…!?な、何だ!?
   おい、誰だよ!?

一夢:遥さんに近づくには…
   お前も邪魔なんだよ…。

拓人:おい、待ちやがれ!
   …行っちまった…。
   何なんだよ、一体…。


-翌日-


一夢:今日もお手伝い、ありがとうございます。

遥:いいえ!大丈夫だよ、力仕事は任せて!

一夢:あはは、満野さん、心強いです!

遥:ねぇ、桐谷君、ひとつだけ質問なんだけど…

一夢:…何ですか?

遥:昨日ね、拓人が人に襲われたらしいの。
  それでね、その時聞こえた声が、
  桐谷君に似てたって…。

一夢:…僕を疑ってるんですか…?

遥:そりゃあわたしは別の人だと思ってるよ?
  でも、拓人が…

一夢:満野さん、次の土曜日、空いてますか?

遥:う、うん、あいてるよ?

一夢:一緒に海、行きませんか?
   海が見たいんですが、一人じゃ寂しいので…。

遥:いいよ?一緒に行こうか。

一夢:本当ですか!?
   嬉しいなぁ…!
   土曜日、楽しみにしてますね。

遥:うん、わたしも楽しみにしてる!


-土曜日-

遥:待った?

一夢:いいえ、今来たところです。
   さぁ、向かいましょうか。

遥:うん!

一夢:満野さん、今彼氏さんいらっしゃるんですか?

遥:…いないよ…?
  どうしたの?

一夢:そうなんですね…。
   鶴宮さんと仲が良いので、てっきり…

遥:あれは違うよ、ただの同級生!
  まぁ、仲が良いっちゃ良いかもだけど…

一夢:…僕、今好きな人がいるんです。

遥:そうなの!?
  どんな人?

一夢:すごく笑顔が可愛くて、元気で。
   僕まで朗らかな気分にさせてくれる人です。

遥:そっか、すごく素敵な人なんだね!
  あ、海が見えた!

一夢:本当ですね…。
   浜辺まで行きませんか?

遥:いいよ?
  行こう行こう!


-浜辺で-


遥:うわぁ…綺麗…!
  海なんて久しく見てなかったもの…!

一夢:それはよかったです。
   満野さん…いえ、遥さん。

遥:え、どうしてわたしを名前で…

一夢:遥さん、あの担任のこと好きでしたよね?

遥:何で…どうして貴方が知ってるの…!?

一夢:簡単ですよ…
   ずっと、貴方を見ていましたから…。

遥:あ、あはは…今日の桐谷君、何かおかしいよ?

一夢:おかしくなんかありませんよ。
   これが僕の本当の心です。
   そして遥さん…
   僕の好きな人、それは貴方です。

遥:嫌ッ…!離して…!

一夢:…拒絶するんだ…。
   僕を、拒絶するんだ…。
   だったら、こうしましょう?

(一夢に連れられて海の中に入って行く)

遥:嫌っ、どうしてこんなこと…!

一夢:決まってるでしょう…?
   一緒に、死にませんか?

遥:…え…?

一夢:心中ですよ。
   大丈夫、貴方を沈めたあと、僕も後を追います。

遥:な、何言って…(沈む)
  や、やめて、お願いだか…(沈む)

一夢:さぁ、早く楽になってください…。
   僕だけのものに、なってください…!

拓人:桐谷、てめぇ何してんだ!

一夢:…邪魔者が来ましたね…。

遥:たく…と…?

一夢:やはり貴方はあの時消すべきだった。

拓人:お前に確認したいことがある。
   早瀬を手にかけたのは、お前だな?

一夢:…ああ、そうでしたね、あのイカれた教師。
   女子高生に色目使って。
   何より、遥さんを惑わせたのがいけなかった。

拓人:やっぱりな…。
   それで、遥と近しい俺を殺そうとした訳だ。

一夢:そうですよ、貴方さえいなければ、
   遥さんは僕のものになりますから。

遥:たく…と…。

一夢:遥さん、僕は一夢です。
   僕の名前を呼んでください。

拓人:…やっぱりつけてきて正解だったな。
   遥は、俺が助ける!

一夢:その前に、僕が彼女を殺します。

拓人:待て、そいつは何も悪くねぇ…!

一夢:僕がいるのに、貴方の名前を呼んだ。
   それだけで罪だ。

拓人:お前…本当に狂ってるな…。

一夢:さぁ、貴方に助けられますか?

拓人、意地でも助けてやる…!


-再び病室へ-


遥:拓人が…そんなことを…。
  拓人!拓人と桐谷君は無事なんですか!?

看護師:二人共、別の病室で眠ってるわ。
    桐谷君は、意識不明の重体ね…。

遥:そう…なんですか…。
  看護師さん、拓人にこう伝えて貰えませんか?

看護師:今は面会謝絶だから、
    また来られた時でもいいんじゃないの?

遥:今すぐに、伝えたいんです。
  ただ、「ありがとう」って、伝えてください。
  彼は、わたしの命の恩人なので…。

看護師:解ったわ、
    彼は毎日貴方に会えるか病院に通ってるから、
    伝えておくわね。

遥:ありがとうございます…。

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